こだわりアカデミー
北海道・東北・九州・沖縄に酒豪が 中部・近畿に下戸が多いそのわけは…。
酒の強さは遺伝子で決まる
筑波大学社会医学系助教授
原田 勝二 氏
はらだ しょうじ
1938年鹿児島県生67年、東京大学理学部生物学科卒業。72年、同大学大学院理学研究科博士課程修了。杏林大学助手を経て、76年筑波大学社会医学系助教授に。同年より78年まで西ドイツ・ハンブルグ大学にフンボルト上級研究員として留学し、80−81年には同大学客員教授を務める。
2000年5月号掲載
下戸遺伝子は弥生人ゆずり!?
──最近、このALDH2遺伝子の型の割合を、都道府県別に調べられたそうですが。
原田 はい、北海道から沖縄まで五千名以上の日本人を対象に調べたところ、図表1にあるように北海道、東北、九州、沖縄地方に酒豪遺伝子であるN型遺伝子の割合が多いことが分りました。特に秋田県が一番多く、次に鹿児島県と岩手県、逆に最も少ないのが三重県、次いで愛知県という結果になったのです。
図表1:都道府県別に見たN型遺伝子(ALDH2*1)の頻度 東北・南九州地方には飲めるタイプ(N型遺伝子)の割合が多く、反対に中部・近畿地方に飲めないタイプであるD型が多く広がっている |
──N型遺伝子のみを持つ人は日本の北と南に多いんですね。地域差がはっきりしているように思うんですが…。
原田 そうですね。でも、どうしてそうなったのかは、はっきりと分っていないんです。ただ、以前世界的に同様の調査をしたところ、図表2を見てもらうと分るように、コーカソイド人種(白人)やネグロイド人種(黒人)にはNN型の人しかおらず、D型の遺伝子を持っているのは日本人や中国人などのモンゴロイド人種だけということが分りました。このことが関係しているのではないかと考えています。
欧米のコーカソイド、アフリカのネグロイドにはほとんどD型は検出されなかったが、モンゴロイドである東洋の黄色人種、南北アメリカのインディアンでは検出されている |
──と言うと、具体的には…。
原田 前にも言ったように、D型はN型遺伝子の突然変異でアセトアルデヒドを分解する能力が低下したものなんです。ですから、そもそも当初人類にはN型しかなかった。そこに突然変異が起こり、D型ができた。おそらく2−3万年前にモンゴロイド人種の中で起こったことだと思います。そして、その人達が時代を経て増えていったのです。
──日本も大昔はNN型の人しかいなかった。そこへD型を持った人達がやってきたということなんでしょうか。
原田 そうではないかと思います。現在の日本人は、縄文人と弥生人の特徴を兼ね備えていると言われています。それに当てはめて考えると、恐らく縄文人のほとんどはN型遺伝子のみを持っており、とても酒に強かった。そして、縄文時代末期から海を渡って近畿、中部に多く移り住んだとされる弥生人によって、酒に弱いD型遺伝子がもたらされた…。この歴史のために地域差がでたのではないかと思います。
──確かにそう考えると、図表1のような都道府県別の色分けも納得できますね。そういった意味では、コーカソイド人種であるハンガリー人やインド人にも、若干ではありますがD型遺伝子を持った人がいるというのは、歴史と照らし合せて考えると、かつてモンゴル帝国の支配がそこまで及んでいた証でもあるわけで、とても興味が湧いてきます。
原田 そうでしょう。ただ、今は昔と比べ国境を越えて人の交流が容易になっており、今後はD型遺伝子を持つ人が増えてくると思います。いつか、これらの図のようにはっきりとした模様を描けなくなるでしょうね。
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