こだわりアカデミー
昔では考えられなかったカビによる病気が 医療技術の進歩に伴い、非常に増えています。
人に棲みつくカビの話−病原真菌の恐怖
千葉大学真菌医学研究センター・センター長
宮治 誠 氏
みやじ まこと

1937年神奈川県生れ。63年千葉大学医学部卒業。68年同大学大学院医学研究科修了後、同大学助手、73年助教授、77年教授に。87年同大学真核微生物研究センター(現:千葉大学真菌医学研究センター)センター長に。医学博士。日本菌学会会長。主な著書に『人に棲みつくカビの話』(95年、草思社)、共著に『病原真菌学』(92年、南山堂)など。
1999年4月号掲載
カビの中には、強い毒性を出すものも
──カビ自体が害をもたらすだけでなく、カビがつくり出すカビ毒というのもあるそうですが。
宮治 はい、カビの中には、非常に強い毒性を持った分泌物を出すものがいます。中でも有名なのが、米などの穀物や食品に付くカビが産生する「マイコトキシン」という毒です。これは、食物の味を悪くする上、発ガン性物質をも含んでおり、大変危険です。
最近の例では、北朝鮮が食糧難で急きょタイからトウモロコシを輸入したら、全部カビが生えていた。しかし、背に腹は代えられないというのでそのまま配給したところ、全員ひどい下痢を起こしたというニュースがありました。
──随分前ですが、日本でも輸入した米が黄色く変色していたという「黄変米事件」がありました。あれもカビ毒によるものだそうですね。
宮治 そうです。これは、昭和28年から29年にかけて、戦後の食糧不足のため、タイを始め遠くはエジプトなどから輸入した米の中に、黄色く変色したものがあったという事件です。犠牲者は出なかったものの、大騒ぎになりました。これもカビが産生したマイコトキシンだったんです。これ以後、輸入時の検査体制を厳しくしているので、それほど心配する必要はありません。
──日本で生産される食品にも、そういうことはあるんですか。
宮治 マイコトキシンを産生する同じ種のカビは日本にもいますが、面白いことに、日本の環境下ではほとんどつくりません。カビに限らず生物全般に、日本にはそんなに「暴れん坊」がいないんです。日本という国は不思議ですね。
──ありがたいことですね。
ところで、冒頭、カビによる病気が、今、大変問題になっているとおっしゃいましたが…。
宮治 30年くらい前までは、カビによる病気といえば水虫くらいでした。ところが、医療技術の進歩に伴い、非常に増えてきています。
例えば、抗ガン剤や抗生物質、臓器移植に使う免疫抑制剤などが開発されたことで、不治の病とされてきた白血病やガンなどへの有効な治療法が出てきて、とにかく患者が生き延びることができるようになりました。しかしその反面、病気で体の抵抗力が弱ってしまうため、普通ならば、ほとんど病気を起こす心配のなかったカビなどの微生物が取り付き、重篤な真菌感染を併発してしまうようになったのです。
──今までは、カビの病気にかかる前に、ガンなどで亡くなっていたということですね。
宮治 そうです。結果的に医療の進歩が、カビの病気への門を開けたという形になってしまったのです。
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