こだわりアカデミー
くだらない口論から発展する男性の殺人は 自己顕示欲の現れ。 その底には配偶者獲得の競争があると考えられます。
ヒトがヒトを殺すとき−進化論からのアプローチ−
専修大学法学部教授
長谷川 眞理子 氏
はせがわ まりこ
1952年東京生れ。83年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士。同年、東京大学理学部助手を経て、専修大学助教授、現在、同大学教授に。その間、87年にケンブリッジ大学動物学教室特別研究員、92年と94年にイェール大学人類学科客員準教授も務める。著書に『クジャクの雄はなぜ美しい?』(92年、紀伊國屋書店)、『オスとメス 性の不思議』(93年、講談社)、『雄と雌の数をめぐる不思議』(96年、NTT出版)など多数。99年11月20日には、殺人行動研究の第一人者、デイリーとウィルソンによる『人が人を殺すとき』(新思索社)を長谷川寿一氏とともに共訳出版した。
2000年1月号掲載
人間の行動、心理、芸術を進化的に見る
──本日は先生のご専門である「行動生態学」についてお話を伺いたいと思います。
まず、この学問はどういう研究をする分野なのでしょうか。
長谷川 動物の行動には、直接的な原因や動機のほかに、進化的になぜそのような行動が生じたのかという要因があります。採食、なわばり、攻撃、繁殖などのさまざまな動物の行動が、どのような進化の要因によって形成されているのかを探ろうというのが行動生態学です。
私は、これまで動物を研究してきましたが、最近は、人間の行動の研究に取り組んでいます。人間行動の進化的な研究は、欧米ではこの20年ぐらいの間に、理論的な研究の面からも実証的な研究も、大いに進んできました。芸術や宗教なども含めて、人間の心理メカニズムが進化によってどのようにつくられてきたのかを探ろうとしています。
──先生は人間の何を研究対象にされているんですか?
長谷川 『殺人』について研究しています。殺人は、個人間に何らかの葛藤が存在する時に生じます。そのような葛藤のほとんどは、殺人にまでは至らないでしょう。小さな怒りで済むことだってあります。殺人は極端ですが、原因となっている葛藤自体は、人間が何に対して怒るか、何を本当に守るべきことだと感じているかを現しています。
──確かに、人とのもめ事で怒ることはありますし、「喜怒哀楽」というように、人間として自然な行為でしょうね。でも、殺人となるとどうかと思いますが…。
長谷川 そうですね。人を殺すことは尋常な話ではありません。それは明らかに逸脱です。しかし、人と人との葛藤において怒るということそのものは、自分の立場や地位、主張、利益を守るためのもので、怒らないとそれらは守りにくくなります。殺人にまで至るのは極端な例ですが、それを調べることによって、人がどんな状況で自分の立場や利益をどうしても守らねばならないと感じるか、その潜在的な葛藤の性質を進化的に分析しています。
──殺人とは怖いテーマですが、とても興味深いですね。
『雄と雌の数をめぐる不思議』(中公文庫) |
早稲田大学政治経済学部教授に。
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