こだわりアカデミー
尿1滴でがんを検知。 線虫の優れた嗅覚を使った最新医療に挑む
線虫ががんのにおいを嗅ぎ分ける?
九州大学大学院理学研究院助教
廣津 崇亮 氏
ひろつ たかあき

1972年山口県生まれ。97年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了、2001年同博士課程修了、理学博士。01年~03年日本学術振興会特別研究員(東京大学遺伝子実験施設)、04年京都大学大学院生命科学研究科ポスドク研究員、05年より現職。02年井上研究奨励賞受賞(井上科学振興財団)。
2016年11月号掲載
廣津 ええ。そこで線虫が反応しないのはにおいが濃すぎるのかもと考え、少しずつ薄めながら実験を繰り返しました。その結果、10倍に薄めると動きが突然顕著になりました。健常者の尿からは逃げていき、がん患者の尿の方に吸い寄せられるように動いていくのです。シャーレの中で、きれいに分かれて…。初めて見たときは、それは興奮しました。
──先生の基礎研究が生かされたということですね。そこから実証実験を?
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実験の様子〈写真提供:廣津崇亮氏〉 |
廣津 はい。約250サンプルで線虫の反応を調べました。その結果、がん患者をがんと診断する確率、健常者を健常者と診断する確率ともに95%でした。中には採尿時にがんと診断されていなかった人の早期がんを発見したケースもありました。
──95%! しかも、早期のがんまでも! 線虫の能力に個体差はないのですか? それともある程度、性能のいい線虫を選別して使っているのでしょうか?
廣津 実は「Cエレガンス」は雌雄同体で、同一個体が精子と卵子を持ち、自分単体で子どもをつくることができます。つまり、遺伝的にはクローンになり、個体差がないため、結果に差が出ないといえます。
がん種の特定を視野に、2019年の実用化を目指す
──そんなに簡単にがん検査ができるなら、今すぐにでも実用化して欲しいところです。実用化はいつ頃の予定ですか?
廣津 2019年を目指しています。検査のメカニズムはできているのですが、実用化には、運用の仕組みを整える必要があります。大きな課題が2つあり、日本でがんを発症する可能性の高い年代の人は現在約6,000万人いますので、まずはその規模で検査できる方法にしないといけません。また、Cエレガンスは検査に適した状態を保った状態で運ぶのが難しいため、適した検査場所を用意する必要もあります。おそらく専門機関でいい状態の線虫をスタンバイさせて、医療機関などから尿を送ってもらって検査するという形になるのではないかと考えています。
──意外と早期の実用化が期待できそうですね。がんと一口に言っても、胃がん、肺がんなどさまざまながんがありますが、どの種のがんかまで分かるのでしょうか?
廣津先生が代表を務める(株)HIROTSUバイオサイエンスは2017年4月18日、(株)日立製作所と線虫によるがん検査の実用化に向けた共同研究開発契約を締結しました。今後両社は、線虫がん検査法「N-NOSE」の実用化に向けて、日立が新たに開発した線虫がん検査自動解析技術を活用した検査の自動化についての共同研究を行なっていきます。
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