こだわりアカデミー
“情報”は社会に適応するための必須のツール。 でも“情報からの疎外を恐れない”という気持ちも 大事です。
インターネット時代の情報操作
社会心理学者 明治学院大学法学部教授
川上 和久 氏
かわかみ かずひさ

1957年東京生まれ。80年東京大学文学部社会心理学科を卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。86年東海大学講師、91年同大学助教授。92年明治学院大学法学部助教授となり97年より現在に至る。専攻は社会心理学、コミュニケーション論。昨年出版された著書『メディアの進化と権力』(NTT出版−写真)は同年夏、情報・通信分野に関して優れた図書に与えられる大川出版賞(主催:(財)大川情報通信基金)を受賞した。その他の著書に『情報操作のトリック』(94年、講談社現代新書)、共著に『広告データの読み方・使い方』(92年、日本経済新聞社)がある。
1998年4月号掲載
「通信」によって生まれる民のパワー
──確かに戦争などの大きなできごとでは、パーソナルメディアのような小さなメディアは太刀打ちできないかもしれません。しかし、個々のレベルでは権力の支配を受けにくいメディアとして期待できるのではないですか。
川上 今の電子メディアはそうした方向に向けて発展していく過渡期ではないかという気がします。
今インターネットに掲載されているホームページの状況を見てみると、個人が出しているホームページは日本だけでも何万件とあります。今後は、このようなネットワークで流れている情報を、世論がどう評価し、活用するか、考えていかなければいけない時に来ていると思うんです。
──健全な発展は私達自身の責任でもありますね。
川上 ええ。でもそこで気を付けなければいけないこともあります。これまでの紙メディアと同様のマスコミ的秩序で「こうでなければいけない」ということになると今までと同じです。電子メディアならではの特性を考慮しなければ、なんの解決にもならないし、発展もしていかないでしょう。
私はこれからの電子メディアは、「民」のパワーを生む原動力になるのではないかと考えます。
これまでのマスメディアでは発信者はごく限られた人だけで、社会の大多数の人はあくまでも受取人でしかありませんでした。ですが、電子メディアには誰もが発信者となれる可能性があります。そしてインタラクティブ(双方向)な通信ができるという特性がある。「点」がいくつも集まり「面」になっていくように、ある人から発信された情報が、共鳴や賛同を得て、これまでのマスメディアではできなかった「個の意見が社会を動かす」というパワーとなりうるでしょう。
このパワーの表れの一つがダイオキシン問題です。この問題を扱ったホームページは日本全国たくさんあります。こうしたインターネットを通じて同じような問題意識を共有している人達がネットワークをつくり、それが世論になる。さらにそれらがマスメディアに取り上げられて、行政にフィードバックされていく・・・。こういったことが今後たくさん起こってくるのではないでしょうか。
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大川出版賞を受賞した川上氏の著書『メディアの進化と権力』(NTT出版) |
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