こだわりアカデミー
回転するゆで卵が立ち上がる! 誰も解けなかった謎を解明
身近な謎を発見して解き明かす悦び
慶應義塾大学法学部教授
下村 裕 氏
しもむら ゆたか

1961年京都生まれ。84年東京大学理学部物理学科卒業、89年同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。同大学理学部助手、慶應義塾大学法学部助教授等を経て、2000年より現職。00〜02年英国ケンブリッジ大学に研究留学。06〜12年まで慶應義塾志木高等学校校長を兼務。専門は「力学、流体物理学、乱流の統計理論」。現在は、研究とともに、主に文系の大学生に科学的な発想と思考、実験の楽しさを伝える物理学の授業を行っている。著書に、『ケンブリッジの卵』(慶應義塾大学出版会)、『卵が飛ぶまで考える』(日本経済新聞出版社)など。
2014年1月号掲載
学生時代に読んだ『コマの科学』がきっかけに
──先生は「ゆで卵を回転させると立ち上がる」現象を理論的に解明されたことで有名だと伺いました。実は私は知らなかったのですが、実際にやってみたら本当に立つんですね。
下村 身近にありながら、まだ解明されていない現象というのは意外とたくさんあります。回転するゆで卵が立つ現象についても、広く知られているにもかかわらず、その仕組みの解明は物理学の世界でも長年の謎とされてきました。
──不思議な現象ですよね。先生は流体力学が専門だそうですが、なぜ、このような研究をされたのでしょうか?
下村 そもそものきっかけは学生時代に読んだ本です。物理学者の戸田盛和先生の『コマの科学』(岩波書店)という著書に、回転するゆで卵が立つ現象が紹介されていたんです。でもその仕組みはよく分からなかった。その後、大学で文系の学生に物理を教えるようになり、戸田先生の別の著書を参照する機会があったんですが、やっぱり原理が分からない。関係する論文なども見つからない。もしかして「オープン・クエスチョン(未解決の問題)」なのか…と、いつか自分で考えてみようと思っていたのです。
──そういう前段があったのですね。オープン・クエスチョンとなると、なかなか魅力的なテーマです。
下村 その後、2000年から2年間、ケンブリッジ大学に研究留学しました。もちろん最初から卵の研究をしようと思っていたわけではありません(笑)。「流体力学」の中でも、燃料と酸素が混合して化学反応を起こす燃焼乱流という難しいテーマにチャレンジするつもりだったんです。それがひょんなことから、後に共同研究者となるニュートン研究所所長のキース・モファット先生の講演を聞く機会を得て、研究テーマが一転しました。モファット先生は流体力学では世界的に有名な神様のような存在です。オイラーディスク(写真参照)に関する講演だったのですが、なぜか最後にモファット先生が卵を取り出しまして…。
──そこでまた、卵に出合ってしまったんですね(笑)。
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オイラーディスク。「円盤状のものを回転させると、倒れるに従い音が高くなる」という現象を利用したおもちゃ。凹面状の板の上で重いディスクを回すと次第に音が変化する様子が分かる。この現象も完全には解明されていない<写真提供:下村裕氏> |
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『卵が飛ぶまで考える―物理学者が教える発想と思考の極意―』(日本経済新聞出版社) |
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