こだわりアカデミー
香辛料には、人に有益な成分が多数ふくまれており その構造を分析するのが私の研究です。
香辛料は抗酸化物質の宝庫
放送大学教授
中谷 延二 氏
なかたに のぶじ

なかたに のぶじ 1940年、東京都生れ、63年、東京大学農学部農芸化学科卒業、68年、東京大学大学院農学系研究科博士課程修了、農学博士。同年、東京大学農学部助手。75年、大阪市立大学生活科学部助教授、88年、同大学教授、94年、同大学生活科学部長、2004年、同大学名誉教授を経て、同年より現職に。香辛料が秘める機能性や、生理学上での効用などを研究。02年、日本栄養・食糧学会賞受賞。04年、日本調理科学会副会長。主な著書に、『有機化学─ライフサイエンスの基礎』(83年、培風館)、『食品化学』(87年、朝倉書店)、『香辛料成分の食品機能』(89年、光生館)など。
2005年2月号掲載
食用植物の有効成分を探る抗酸化・抗菌性の研究
──先生は食用植物成分の研究を専門とされており、特にハーブや香辛料の研究では第一人者だと伺っております。
本日はいろいろとお聞きしたいと思いますが、まず始めに、主な研究のテーマは何でしょうか?
中谷 天然の食用植物に含まれる成分を探索して、それが人に有効な成分であれば、化学構造を解析するのが主なテーマです。あわせて人工的に合成する研究も行なってきました。
大学院時代、天然殺虫剤などの合成研究をしていたのが基礎となり、現在、抗酸化や抗菌性を持つ食用植物成分を研究するようになったのです。
──抗酸化や抗菌性というと、まさにハーブや香辛料が当てはまりますね。
海外のイメージが強いようですが、日本でもワサビやショウガなどが、古くから使われていますね。
中谷 はい。特にショウガは、香辛料としてよりも、疲労回復、病気治療など医薬用に使われていたようです。食欲増進や殺菌などの作用、リウマチ、神経痛への効能、さらに体を温める作用もあることから、冷え性や発汗などにも効果があります。
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ショウガは、健胃、消化促進、発汗、血圧降下などの作用がある。マレーシアにはたくさんのショウガ科植物があり、現在約100種類のショウガ科植物の栽培を行なっている<写真提供:中谷延二氏> |
──それ程体に良いのなら、上手に食生活に取り入れたいですね。
ところで、どのようにして抗酸化や抗菌性という研究テーマにたどりつかれたのでしょうか?
中谷 食品に関する面白い研究はないかと考えたとき、タンパク質や糖などの栄養化学は、すでに多くの方が研究されていました。
しかし、香辛料の機能性については、まだ研究が一部分しか進んでいない状況だったのです。
──香辛料は昔から、薬や食品の保存に使われるなど、古い歴史がありますね。
中谷 そうなんです。当然酸化や腐敗を防ぐための機能があるのではないかと考え、そこで抗酸化、抗菌性の2本立てで分子構造の解析を始めたのです。
──それはいいところに目を付けられましたね。
ここ数年、抗酸化という言葉をよく耳にするようになりました。そもそも、どういったものなのでしょう。
中谷 体内で活性化した酸素、いわゆる活性酸素が、強力な酸化力で細胞を侵食すると、体の中の機能がサビついた状態になります。
すると、正常な働きができなくなり、糖尿病や高脂血症、肝臓の機能低下など、生活習慣病といわれる問題が起きてきます。
──体の中をサビつかせないように酸化を抑える作用が抗酸化というわけですね。
中谷 その通りです。サビ止めでサビを防ぐように、体のサビ止めになるのが、抗酸化物質と呼ばれる成分です。
ですから、抗酸化作用の高い食品を取ると体の本来の機能を低下させないようサポートできるわけです。
──抗酸化作用があるものとして、最近ではワインなどのポリフェノールが話題になっていますよね。
先生は、これまで多くの解析をなさって成果を挙げられていますが、具体的にはどういったものがあるのでしょうか?
中谷 抗酸化でいうと、例えば「ローズマリー」や「セージ」という植物です。他の香辛料に比べて抗酸化成分が非常に高いことが分りました。
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ローズマリーは、細長い葉を持つシソ科のハーブ。肉の臭み消しに効果的で、羊料理などにも使われる。健胃、抗うつ、局所血行促進などの生理・薬理作用を持つ<写真提供:中谷延二氏> |
──抗菌性ではいかがですか?
中谷 風邪をひいたときに喉に炎症を起こす菌がいるのですが、「ナツメグ」や「カンゾウ」などが、これに効くことが分りました。企業と共同研究で、成分を抽出したキャンディーも開発したんですよ。また虫歯菌に有効な成分も見付けています。
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