こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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自然児の足の指はまっすぐです。 外反母趾、内反小指は運動能力にも影響します。

退化する日本人の足の指

筑波大学体育科学系教授

浅見 高明 氏

あさみ たかあき

浅見 高明

1937年東京生まれ。59年、東京教育大学体育学部体育学科卒。62年、東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了、65年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了、65年大阪体育大学体育学部講師、68年、同助教授、69年、東京教育大学体育学部助教授、75年、筑波大学体育科学系助教授となり82年から同教授。医学博士。専門は体力測定学、発育発達学、バイオメカニクス。バイオメカニズム学会第5代会長を務めたのをはじめ、日本体育学会理事・茨城支部支部長、日本武道学会常任理事・編集委員長(2000年現在は理事長に)、人体科学会常任理事(2000年現在は副会長に)・編集委員長等広範なジャンルで活躍している。

1994年5月号掲載


普通の人とどこかが違うアベベの足

──先生は足の裏のご研究で有名ですが、本来のご専門は何ですか。

浅見 現在は体力測定法というのを専門テーマにしておりますが、もともとは運動生理学専攻です。

スタートは手の研究で、昭和43年に、加藤一郎先生(早稲田大学理工学部教授)たちと一緒に「人工の手研究会」を発足させたりもしているんですよ。

──人工の手というと、例の、卵を割らないようにそっと持つことのできるあの手ですか。

浅見 あれもそうです。加藤一郎先生は、筑波万博の時に「ピアノを弾くロボット」をつくられて有名になった方です。この「人工の手研究会」は今、「バイオメカニズム学会」という学会に成長しました。

足の研究については、東大の大学院にいた頃に、人類学の近藤四郎先生の影響を受け、始めたんです。この近藤先生も足の研究の大家でして、最近『ひ弱になる日本人の足』という本を書いておられます。

──なぜ足の裏に興味を持たれるようになったんですか。

浅見 もともと手の研究をしていたことの影響もありますが、足の裏は、人間の体重すべてを支えており、人間が立つためや、さまざまな運動をする上においても大変重要な働きをしていますから、運動生理学上とても興味があったんです。

そして幸運にも、私が初めてフットプリント(足型)をとったのがアべべで、それがまた、この研究にのめりこんでいくきっかけになったのかもしれません。

──あの裸足のマラソン王ですか。

浅見 ええ。1960年、アべべがマラソン大会参加のため来日したとき、東大の大学院で体力テストをすることになったんです。私は教育学部の大学院生でしたが、教授の故猪飼道夫先生から「アべべの足の裏は他の人と違うのではないか。君、フットプリントをとってみないか」と言われたんです。

それは良かったんですが、アべべのコーチというのがヨーロッパの人で、足の裏を汚すのを嫌いまして、汚さずにとる方法を考えなくてはならなかったりと苦労もしました。結局は、カーボン紙を使ったやり方でなんとか成功させました。

その足型を見て「おやっ、これは他の人と何か違うな」と思ったんです。

──具体的にはどこが違ったんですか。

浅見 何が違うのか一生懸命考えたんですが、最初はよく分からなかったんです。確かに、普通の人と比べるとアべべの足は、土踏まずが深く切れ込んでいる。でも日本のマラソン選手の中にもそのくらい切れ込んでいる人はいて、アべべが特別どうということでもないんです。でも、なんとなくやはり日本の選手と違う、なんだろう、それがすごく疑問で、いろいろ考えました。

そのうちにハッと気がついたのは、アべべの足の指はまっすぐだということです。


靴を履いていると小指が浮いてしまう

──ということは、われわれの足の指はまっすぐじゃないんですか。

浅見 ええ、今の人、特に子供なんかは、外反母趾、内反小指といって、親指や小指が足の内側に向いてしまっている形が多いんです。小指が浮いちゃって下にくっつかないから、足型をとっても小指がないんです。これは明らかに靴を履いていることの影響です。

その点、アべべの足というのは自然児の足なんです。小さい時には裸足で生活していたわけですからね。内反小指も外反母趾もない、5本の指が実にまっすぐ、きちんと地面にくっついている。

──地に足がついている・・・。

浅見 ええ。そして、それは非常にバランス感覚か良く、運動能力的にもいい状態であると言えます。

今の人が、石や階段につまずいただけで転んで大けがをしたりするのは、足の指が弱くて、踏ん張れないからです。

──指が退化しているわけですね。そういえば、今の子供たちは転びやすいとよく言われていますね。

浅見 そこで、自然な足、強い足、つまりアべべのような足を持つ人間をつくるにはどうしたらいいだろうと考えるようになったわけです。

──幼稚園や小学校で、児童を裸足で遊ばせているところがあると聞いたことがありますが・・・。

浅見 そうですね、やはり裸足が一番いいんです。しかし、現実には、ガラスを踏んで足を切るなど、けがが多いんです。また、寒いときはとても無理ですね。

そこでハッと思い付いたのが下駄だったんです。実は、私の父が下駄屋だったという背景もあります(笑)。

それで、ある幼稚園に下駄を配って、一定期間下駄だけを履かせた子供と、靴だけを履かせた子供の足型がどのように違うのか、研究を始めました。

──結果はいかがでしたか。

浅見 実にはっきり差がでました。1年半やると、下駄の子と靴の子では大きく違ってくるんです。靴の子は、やはり小指が浮いてしまいますが、下駄の子は接地足蹠面積が増えて地面にぴったり足裏がつくようになるのです。同時に子供たちの足の指の力を測定しましたら、これも下駄の子の方が足の指の力が強いという結果が得られたんです。


足の指の力は、踏ん張りや走力に影響する

──足の指の力というと・・・。

浅見 足の指を曲げる力、地面をつかむ力です。体力学的に見て、足の指の力が増すことは、ここぞというときの踏ん張りや走力に影響すると考えられます。私は若い頃はしょっちゅう下駄を履いて歩いていたし、柔道もやっていましたから、足でつかむ能力はある方なんですが、今の子供たちはこの捕地能力が非常に劣っているんです。

──なるほど。下駄は足の指を鍛えるのにも効果的なわけですね。そのあたりから「半月下駄」も考案されたわけですか。

浅見先生考案の半月下駄「GE-TA(ゲータ)」。足指の力がつきバランスがよくなるだけでなく、爪先を上げかかとを下ろすとアキレス腱や腓腹筋(ふくろはぎ)を十分に伸ばすので脚がきれいになる。また、逆に爪先を下げかかとを上げると背筋が伸びヒップアップ効果がある。マスコミ等で取り上げられ有名になった。
浅見先生考案の半月下駄「GE-TA(ゲータ)」。足指の力がつきバランスがよくなるだけでなく、爪先を上げかかとを下ろすとアキレス腱や腓腹筋(ふくらはぎ)を十分に伸ばすので脚がきれいになる。また、逆に爪先を下げかかとを上げると背筋が伸びヒップアップ効果がある。マスコミ等で取り上げられ有名になった。

浅見 そういうことです。しかもこの頃は、子供ばかりでなく家庭の奥さんやお年寄りも、家の中に閉じこもってばかりいるので足が弱って非常にバランスが悪くなっているんです。それが原因で骨折したり、中には一命を落とす人までいます。家の中でもどこでもいいんですが、この半月下駄を履いていると、足の指に力がついてとてもバランスがよくなります。

──先程ちょっと履かせていただきましたが、歩くより立っている方がとてもつらいですね。履くと思わず歩き出してしまう・・・(笑)

浅見 普通の下駄と違い一点支持ですからね。天狗の下駄や修験者の下駄と同じです。だけど、これを履いて体を前後に揺する運動をしますと、足の裏の筋肉だけでなくふくらはぎもうんと伸ばせますから、すごくいい運動になるんです。


7〜8歳の頃十分に運動すれば、土踏まずはできる

──小さい頃、下駄を履くとべた足になって扁平足になると言われましたが・・・。

浅見 確かに私もそう言われた記憶があります。しかし、それはおかしいなと思いましたので、靴、下駄、裸足の3つのケースで実験してみましたら、むしろ靴を履いている子の方がべた足になってしまうということが分かりました。下駄を履いた子の方が土踏まずがちゃんとできるんです。

もっとも、一番土踏まずがはっきりと大きくアーチが高くなったのは、やはり裸足の子供でしたが・・・。

──そうすると、扁平足は裸足が無理な子供でも下駄で直るということですか。

浅見 そうとも言えません。どうやってもべた足が直らない人はいます。

もともと、生まれたばかりの子供というのは全員がべた足です。それで成長とともに自然に土踏まずができてくるわけですが、なかなかできない子もいます。私の研究したところによれば、だいたい7歳から8歳くらいに十分に運動をやって足を鍛えると土踏まずができるということが分かりました。ただし、真性のべた足というか、運動しても直らない人もいるんです。下駄を履いても、直らない人は直らない。大人になってもべた足のままです。

やはり、これからは総合的な体力向上の中で、子供の足を鍛えなくてはと思っておりますので、この研究は今後も続けていきたいと思っております。

──手から足とテーマが広がる中で、先生の次のテーマはなんでしょうか。

浅見 姿勢、正座等もやりましたが、いまは臍下丹田(せいかたんでん)と重心に関する研究もやっています。その関連で上智大学の門脇住吉先生や桜美林大学の湯浅泰雄先生とともに「人体科学会」というのをつくりまして、「気」の研究もやっております。実は今年(対談当時1994年)の11月に第4回の人体科学会の大会を筑波大学で主催することになり、今準備で大変なんです。

──大会には学者はもちろん、専門家、ジャーナリスト等、国内外の大変著名な方々が出席されるそうですね。さらにお忙しい1年になりそうですが、ますますのご活躍を期待しております。本日はありがとうございました。


近況報告

2000年3月に筑波大学を定年退官。現在は同大学の名誉教授に。研究生活から離れ、静かな日々を過ごしていらっしゃるとのこと。


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