こだわりアカデミー
宇宙からの視点で物事を考えられれば 従来とは違う地球観・人間観が見えてきます。
地球誕生の謎に迫る
東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
松井 孝典 氏
まつい たかふみ

1946年、静岡県生れ。東京大学理学部地球物理学科卒業後、米国航空宇宙局(NASA)の月惑星科学研究所招聘研究員。東京大学理学部助手、助教授を経て現職。85年、マサチューセッツ工科大学招聘科学者。NHK特集「地球大紀行」では企画から参加し、分りやすい解説で好評を得る。86年、イギリスの科学雑誌「ネーチャー」に海の誕生を解明した「水惑星の理論」を発表、世界の学者の注目を集める。87年、日本気象学会堀内基金奨励賞を受賞。主な著書に『地球進化論』(88年、岩波書店)、『地球倫理へ』(94年、岩波書店)、『再現! 巨大隕石衝突』(99年、岩波書店)など多数。
2003年12月号掲載
微惑星の衝突により地球が誕生。形成過程を統一的に解明
──先生は地球・惑星物理学の研究を専門とされており、従来の説を払拭する地球誕生説を解明されました。現在では地球惑星科学の標準理論となっているそうですが、本日はその辺りのお話をもとに、現代の地球問題などについても、いろいろとお聞きしたいと思っております。
まず初めに、地球はいつ、どのようにして生れたのか、先生の理論と従来の理論との違いについて教えてください。
松井 かつて原始地球は、太陽系の塵が集まって誕生したといわれていました。しかし私はあるサイズの微小天体の衝突により、原始地球が生れ、さらにその後も微惑星の衝突が繰り返されたことで、現在の地球の大きさまで成長した、とその形成過程を考えたのです。
──地球は生れた当初は、どんな天体だったのでしょうか?
松井 微惑星は、秒速10キロメートルを超える猛烈なスピードで原始地球に衝突するため、大爆発を起こします。この衝突のエネルギーのすべてが、熱として溜め込まれるとしたら、地球の温度はおよそ2万−4万度に上昇します。実際には10%くらいが熱として溜め込まれますから、2,000−3,000度程度ですが、表面にある岩石は深さ数十キロメートルにわたってドロドロに溶けてしまいます。こうしたことから推測して、地球が生れたときには、「マグマオーシャン」といわれる溶岩の海に覆われた天体であったと考えられます。
──その後、原始地球に大気と海ができた過程には、どういったものがあったのでしょうか?
松井 衝突で微惑星が大爆発を起こすと、微惑星に含まれていた揮発しやすい成分が蒸発し、原始大気ができました。原始大気は水蒸気、一酸化炭素、窒素からなっており、地球の表面温度が一定まで下がると、それらが冷やされ水蒸気となり、雨となって地表に降りそそぎます。こうして海が誕生したのです。
──なるほど。先生は地球の形成を、微惑星の衝突、マグマオーシャン、そして大気や海の誕生と、統一的に解明されたのですね。
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微惑星が衝突、合体を繰り返して成長し、惑星となった(写真提供:NASA) |
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『宇宙人としての生き方』(岩波新書) |
※松井孝典先生は、2023年3月22日にご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)
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