こだわりアカデミー
バイオを使って藻類のCO2吸収力を増大させれば 地球温暖化問題の有効な解決手段になります。
五感に代わるバイオセンサー
東京大学先端科学技術研究センター教授
軽部 征夫 氏
かるべ いさお

1942年東京生まれ。東京水産大学卒業。72年に東京工業大学大学院博士課程を修了後、74年までイリノイ大学に留学。同年東京工業大学助手、80年に同大学資源科学研究所助教授を経て、85年同教授となる。88年東京大学先端科学技術センター教授となり、現在に至る。日本化学会学術賞、市村学術貢献賞等を受賞。バイオセンサーの分野における世界的権威者である。工学博士。
著書に「バイオセンサー」、「地球にやさしいバイオ」、「バイオエレクトロニクスの未来」、「ここまでわかればオモシロイ バイオの話」他多数ある。最新書「絵でわかるバイオテクノロジー」(1992年発行、日本実業出版社)は、バイオテクノロジーの基礎となる技術はもちろん、エレクトロニクス、メカトロニクスからバイオによってもたらされる未来社会までを、豊富な絵と図解で解説しているバイオの入門書である。
1993年3月号掲載
紫外線を吸収する珊瑚から新しい化粧品も
──先生の現在のテーマはなんでしょう。
軽部 一つは環境問題です。要するに生物の機能を使って、地球温暖化の大きな問題になっているCO2を取り除こうというもので、今あちこちで実験をしています。中でも藻類の優れたCO2吸収力をバイオテクノロジーでさらに増大させることができないかと考えているんです。通常、空気中のCO2の濃度というのはすごく低いんですけれど、30%とか40%というCO2だらけのところでも平気で生きていける微生物がいっぱい見つかっているんです。
──それは驚きですね。
軽部 本当に不思議です。それも普通のところに生息していた微生物が、そういう環境に適応してしまうんですから。
──CO2を閉じ込める役目をしてくれるんですか。
軽部 ええ。その上CO2をたんぱく質に変えてくれるんです。ですから、煙突から出ている煙を持ってきてバイオリアクターに吹き込む。中に藻類をワーッとを入れておけば、どんどんタンパク質に変わっていきます。これを今、通産省の研究プロジェクトと一緒にやっています。
──CO2からタンパク資源が取れるなんて願ったりかなったりですね。
軽部 もう一つは海洋バイオで、珊瑚の研究をしています。珊瑚というのは不思議だと思いませんか。あんな紫外線の強いトロピカルの海に生息している。人間だったら皮膚癌になってしまいますよ。それなのに死なないで珊瑚礁で島を作っている。生物のつくった島です。
──ホントですね。確かあれは、珊瑚虫と藻類の共生なんですよね。
軽部 ええ。藻類が一生懸命CO2を採って光合成して、えさを珊瑚虫に与えているわけです。
オーストラリアのダンロップ教授は、藻類の中に紫外線を吸収する化合物があるに違いない、と考え、そして紫外線に強い、紫外線を防ぐ物質を発見したんです。それは新しい化粧品の原料として、今後世界中で使われるようになります。今までのものの何十倍もの効果があります。
──それは大発見ですね。
軽部 さらにもう一つ。藻類は光合成で酸素を大量に放出するわけですね。できたての酸素というのはものすごく殺菌力が強い、毒性が強いわけです。しかし藻類は死なない、平気です。おかしいな、何かそういう酸素に強い化合物があるに違いない、ということで発見されたのが抗酸化剤です。これは生鮮食品などの酸化防止剤として活用できるわけです。
※軽部征夫先生は、2020年2月8日にご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)
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