こだわりアカデミー
自然とともに暮らしている東南アジアでは 資源・自然を「絶やさない」という発想が当り前なんです。
エビと自然破壊−収奪から共生へ
東南アジア社会研究者 上智大学外国学部教授
村井 吉敬 氏
むらい よしのり

1943年千葉県生れ。66年早稲田大学政経学部卒業後、75−77年インドネシア国立パジャジャラン大学へ留学。帰国後上智大学国際関係研究所助手などを経て、83年同大学外国語学部助教授、88年教授に。現在、教鞭を執る傍ら、アジア太平洋資料センター共同代表、同センター発行の月刊誌「オルタ」の執筆も行う。著書に『スンダ生活誌』(78年、NHKブックス)、『小さな民からの発想』(82年、時事通信社)、『エビと日本人』(88年、岩波新書)、『サシとアジアと海世界』(98年、コモンズ)などがある。
1998年8月号掲載
1年でエビを100尾も食べる日本人
──先生は東南アジア社会についてご研究されていますが、著書「エビと日本人」を読ませていただきまして、エビを買いあさる日本と、そのためのエビを輸出する東南アジアの関係がよく分かりました。しかし、われわれ日本人のエビの消費量の多さには本当に驚きました。
村井 日本人は、世界で取引されるエビの4割を消費しています。世界一です。1人当りにすると1年間に約3キロ、かなり大型サイズのエビで換算して、だいたい100尾を食べていることになるんです。
──そんなにたくさん食べているような気はしないんですが…。
日本は海に囲まれていて、もともとエビも獲れる国ですが、輸入してまでなぜそんなに食べるのでしょうか。
村井 日本人は昔からエビが好きですからね。また、縁起物として珍重している側面もあると思いますが、それだけでは説明できません。というのは、実はエビが嫌いな人って、世界中を見てもそうそういないんです。なのに、なぜ日本人だけこんなに大量に食べるのか。調べていくと、日本人はお金を持っているという話に行き着くんです。
エビの大量輸入国を歴史的に遡って見てみますと、昔はイギリスにかなり集中していました。その後にアメリカ、そして70年代以降、日本が世界のトップになりました。
──ちょうど日本の高度成長時代に当ります。生活にゆとりが出てきて頻繁に食べられるようになったんですね。
村井 もう一つ、これには日本の貿易黒字問題も関わっているんです。
日本は世界的な工業製品の輸出国ですが、国内には資源がないため原材料を輸入し、加工して輸出する形をとっています。当然、原材料輸入額より輸出額の方が大きくなります。しかし、世界全体の貿易バランスをとる観点からも、輸出したらそれに見合う輸入をしなくてはいけません。その差額を埋める、つまり貿易黒字を解消するための輸入商品として、割と高価なエビをたくさん買い入れるようになりました。それで私たちの食卓に上る機会が増えたんです。
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