こだわりアカデミー
人間が「宇宙は一体だ」と自覚できるかどうかが 地球文明の分かれ目になると思います。
超大型加速器で素粒子を調べる
東京都立大学理学部教授
広瀬 立成 氏
ひろせ たちしげ

1938年愛知県生まれ。67年東京工業大学大学院博士課程修了。東京大学原始核研究所を経て、71年東京都立大学に移り、現職。理学博士。ハイデルベルク大学やセルンとの共同研究を通じて、素粒子物理学の実験研究に従事している。著書に『モノポール』『反物質の世界』(講談社)、『現代物理への招待』(培風館)、『自然のたまねぎ構造―宇宙・物質・生命の階層』など多数。
1991年3月号掲載
科学の発達と人間の進化の間の格差が問題
—— ところで、先生のご著書を拝見していて、ちょっと心配になったのですが、宇宙の大爆発から現在までの150億年を1年に縮めた「宇宙カレンダー」で言うと、最後の1秒位で急激に変わってしまったということですね。ところが、科学の発達に比べると、人間そのものの基本的な遺伝子だけはほとんど進化がない・・・と。
広瀬 そういうことです。人間の遺伝子はネアンデルタール人時代からまったく変わっていません。
例えば恋愛とか愛情というものは、2000年前も同じでなないかと思います。むしろ紫式部が恋愛していた時代の方が、現代の私たちよりもっと進んでいたんじゃないでしょうか。「源氏物語」などを読んでいても、今よりも、もっとこまやかな心遣いや情の世界がありますよね。
—— 恋愛はもとより、政治でも、ローマ元老院の頃と今やっていることは、ちっとも変わっていませんね。
広瀬 ところが、近代科学はあまりにも短時間のうちに爆発的な発達をとげてしまい、物質の世界を大きく変えてしまった。科学の発達と、人間が本来持っている人間性・精神世界との間に、ものすごい大きな格差が開いてしまったのです。
私は、これは、非常に問題だと思うのです。この地球というのは、一定の気候や水に恵まれるなど、数えきれないほどの偶然的な要素がプラス、プラスと、幸運に作用して奇跡的につくられたものです。それなのに、例えば現在アマゾンで行われている森林の伐採では、1日に四国の面積分の木が消滅しているというのですから、そのようなことを100年も続けていたら地球上は炭酸ガスだらけになって、しまいには廃虚になってしまうのではないかという気がします。
—— 人間の遺伝子を組み替えるわけにはいきませんから、今後は知識とか文明としてそれを理解できるかということですね。
広瀬 果たして人間がそこを本当によく理解して、地球あるいは宇宙は一体なんだという気持ちになるかならないかが、われわれ地球文明の分かれ目になると思います。
—— 何兆個あるか分からない星の中で、わが地球だけが、超偶然で、やっとここまで生き延びているということですよね。こういうことを勉強することによって、今生きていることの素晴らしさやありがたさをあらためて考えさせられる気がします。今日は、どうもありがとうございました。
1997年、NHKブックスより『複雑系としての経済』発刊。
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