こだわりアカデミー
ゴマの成分「セサミン」。 ガンや動脈硬化などを引き起こす 活性酸素を防いでくれます。
「セサミン」で活性酸素を撃退する
京都大学大学院人間・環境学研究科助教授
森谷 敏夫 氏
もりたに としお

1950年兵庫県生れ。南カリフォルニア大学大学院スポーツ医学研究科博士課程修了。テキサス大学助教授、テキサス農工大学助教授、京都大学教養部助教授、スウェーデン国カロリンスカ医学研究所客員研究員、モンタナ大学生命科学部客員教授などを経て、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授に。著書に『スポーツ生理学』(94年、朝倉書店)、『人は必ず太る しかし必ずやせられる』(99年、講談社)など。
1999年10月号掲載
「ゴマは体にいい」その秘密は・・・
──昔から「ゴマは体にいい」と言いますが、先生は、その効能の一辺を解き明かされたと聞きました。本日はそのお話を中心に、いろいろと伺いたいと思います。
まず、ゴマにはどういった効能があるのですか。
森谷 「活性酸素」という言葉を聞いたことがあると思います。これは、体内でエネルギーをつくり出す際に使う酸素の一部が変化してできるもので、これが体内で暴れ細胞膜を破壊するなどし、ガンや動脈硬化などを引き起したり、老化を早めたりします。ゴマはこれを防いでくれる作用を持っているんです。
すでにこの効果は、マウスで証明されていましたが、人間でも同じ効果があるかどうか非常に注目されており、私はそのことを実験的に証明しました。
──とてもうれしい効能ですね。先生は「実験的に証明した」とおっしゃっていますが、具体的にはどういうことをされたんでしょうか。
森谷 激しい運動をするとエネルギーをたくさん使うため、大量の活性酸素が体内で発生します。実験では、人間に激しい運動をさせた時、ゴマの成分である「セサミン」を投与した場合としない場合、そして活性酸素を防ぐと言われているビタミンEを投与した場合の3パターンで活性酸素の量を計りました。
大学の学生数10人に実験台になってもらったんですが、セサミン、ビタミンE、それに偽錠剤(プラセボ)それぞれを全く同じ形状にし、運動する2時間前に飲んでもらいました。もちろん、本人達にはどれを飲んだか知らせていない。実験をしている院生も知らない。知っているのは私だけ。だいたい心拍数が1分間に160拍くらいのペースでエアロバイクを20分間漕いでもらって、活性酸素を計量したんです。
結果は別表の通り、セサミンを飲んだ人は、何も飲まない、いわゆるプラセボを飲んだ人の3分の1の量まで活性酸素を抑えることができるということが分ったのです。
──確かに、ビタミンEはあまり効いていません。セサミンと比較すると歴然とした差があり、すごく効果があるんですね。
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激しい運動を20分させ活性酸素を多くした状態をつくり、セサミン、プラセボ、ビタミンEを投与した場合で活性酸素の量を計測。明らかに、セサミンを摂取すると活性酸素を抑えられることが分る ※ 活性酸素は、体内ですぐ過酸化脂質(LPO)という物質に変化するため、実際にはLPOを計測した。 ※ 計測は、運動前と運動開始後5分、10分、20分後、さらに運動を止めた後も10分ごとに行なった ※ 実験の2時間前に投与しているため、速効性の高いビタミンEは実験開始までに体内で作用して消失し、結果に現れていない(P=プラセボ、S=セサミン、E=ビタミンE) |
ビタミンEとの併用でさらに効果アップ
──「セサミン」とはどういう成分で、どのように働いているんですか。
森谷 ゴマの成分「ゴマリグナン」を形成する物質で、酸化を防いでくれます。このセサミンの最大の特徴は、体内で吸収された後、肝臓に行って初めて働くという点です。
肝臓というのは、エネルギーのもとになるグリコーゲンをつくって貯えたり、体を構成するアミノ酸やタンパク質、脂肪などの合成、分解、有毒物質の解毒といったいろんな働きをするため、体内で一番酸素を使うところなんです。
──ということは、一番活性酸素ができてしまうところでもあるんですね。
森谷 そういうことです。セサミンのほかにも酸化を防いでくれる物質には、ビタミンEとかCなどがよく知られていますが、これらは水溶性で、血液に溶けて血中の活性酸素を除去するため肝臓までは届きません。ですから、肝臓まできちんと届くセサミンは、これら以上に効果絶大です。
しかし、ゴマリグナンというのは、ゴマ1粒に対して約1%しか含まれていない成分であり、そのもととなるセサミンとなると、ごく少量です。
──それを有効的に摂取する方法は?
森谷 ゴマの殻は食物繊維でできていて、かつ非常に固いため、そのまま食べただけでは効果がないんです。殻をすりつぶして食べることが大事です。またゴマ油もとてもいいですね。
さらに効果を上げるには、すぐに血中で効くビタミンEとの併用が最高です。
セサミン効果は学会でも大反響
──ワインブームに乗って、ポリフェノールなども活性酸素に有効だと言われていますが、ほかにセサミンに匹敵するものはないんですか。
森谷 今のところ、ここまで活性酸素を防ぐ物質は見つかっていません。
先日、イタリアで開催されたスポーツ医科学学会でセサミンの効能を発表したんですが、すごい反響でした。こういう学会で、きちんとしたデータをもとに、ここまで活性酸素を防ぐことを発表したことは初めてなんです。
ポリフェノールについては、実はまだ実験的に証明されたわけではないんです。これは、フランス人はたくさん肉を食べて脂肪分を摂取するわりに、活性酸素が引き起す心臓病が少ないため、彼らが食事の際、欠かすことのないワインにその効用があるのではないか、ワインに含まれているポリフェノールがいいんじゃないかと言われているだけです。
──あくまで推測の域なんですね。
ところで、先生のご専門は「スポーツ医学」ですが、どうしてそこからゴマに結びついたんですか。
森谷 南カリフォルニア大学在学中、第一専攻科目に運動生理学、副専攻科目に老化学を履修し、「活性酸素と老化の関係」を学んでいました。私は昔からジョギング愛好家でして、激しい運動は活性酸素を大量発生させることを知り、「大丈夫かな?」と心配になり、それで、活性酸素を防ぐにはどうしたらいいのか研究するようになったんです。
──確かに、一時期「スポーツは体に悪い」と言われたことがありましたね。
森谷 はい。それで酸化を防ぐものはないかと考えていたら、ゴマが浮かんできた。というのは、ゴマ油はほかの植物油よりも腐りにくく、古代エジプトでは防腐剤としてミイラに塗っていたほどです。私が子供の頃も、夏によくゴマ油の料理を食べさせられた記憶があって、「もしかしたら活性酸素に効くかもしれない」と思ったのです。
しかし現在では、人間は活性酸素を防御する機能を持つSOD(スーパー・オキサイド・ディスムターゼ)という酵素を持ち合せていることが分り、軽いジョギング程度なら問題ないことが判明しています。ただし、このSODは、運動を継続的に行なうと増える酵素なので、普段まったく運動しない人が急にジョギングなんかしてもSODが増加しない。逆に、大量に活性酸素が発生してしまいます。
──日頃から体を動かす、そしてゴマを食べるのが一番ですね。
「運動」をキーワードに幅広い研究
──セサミンには、活性酸素を防ぐ作用以外にも、いろいろ効能があるそうですね。
森谷 セサミンは肝臓でアルコールの「酔い」の原因になるアセトアルデヒドの分解を促進するので、二日酔い防止にも効果を発揮します。実験で、アルコールが弱い人に1週間セサミンを投与して飲酒させたところ、投与前と比べて、アルコールによる顔面温度の上昇が見られませんでした。
またほかにも、血液中のコレステロールを低下させてくれる働きもあって、動脈硬化や心筋梗塞の予防にも有効なんです。
──今後のご研究のテーマは?
森谷 糖尿病の患者を減らすことです。現在、日本には昭和初期と比べて50倍もの糖尿病患者がいるんです。遺伝とか言われますが、どう考えても遺伝でここまで増えるわけがなく、まさに生活習慣病です。脂っこいものをたくさん食べて、運動をしなければ当然のこと。20代の4分の1の人が、40代ともなると半分以上の人がその予備軍とも言われています。
療法としては、通常はインスリンで血中の糖を下げますが、本来は運動してその糖を燃焼させることが一番なんです。でも、糖尿病で膝が痛くて運動できないというような人もいるわけで、寝ながらでも運動できる装置をつくろうと今研究中です。
──機械装置もつくるんですか。幅広いご研究ですね。
森谷 ほかに、その人にあった運動量を計算するソフトなんかもつくっています。運動することは健康につながります。私はたくさんの人に運動をしてもらいたくて、「運動」をキーワードにさまざまな研究をしているだけなのです。
──人間は動物の一種で、もともと運動するように体ができているわけです。私達は、車などの文明の利器に甘えないで、もっともっと運動をして、できるだけ薬や医療に頼らない健康を心掛けなくてはいけませんね。
今日はとても興味深いお話ありがとうございました。
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