こだわりアカデミー
病気から免れるために働く免疫システム。 私達の体は、未知の病原体にも対応できる能力があります。
特殊なリンパ球「NKT細胞」でガンに挑む
独立行政法人理化学研究所横浜研究所センター長
谷口 克 氏
たにぐち まさる

たにぐち まさる 1940年、新潟県生れ。67年、千葉大学医学部医学科卒業後、74年、千葉大学大学院医学研究科病理専攻博士課程修了。千葉大学助手、教授、医学部部長を経て現職。83年に皮膚癌の超早期診断法の開発を発表。97年には癌を防ぐ働きを持つNKT細胞を活性化させる物質を発見。日本免疫学会会長も務めるなど、数々の業績を持つ。著書に『免疫の闘い』(87年、読売新聞社)、『標準免疫学』(2002年、医学書院)、『新・免疫の不思議』(04年、岩波書店)、『谷口教授の免疫ポイント講座』(04年、医薬ジャーナル社)など多数。
2004年8月号掲載
免疫は脳に次ぐ高度なシステム
──先生は免疫について専門に研究されており、これまでに、癌をも抑制する働きを持つリンパ球「NKT細胞」の発見を始め、さまざまな功績を残していらっしゃいます。
本日は、いろいろなお話を伺っていきたいと思いますが、まず始めに、免疫の仕組みについて、一体どういったものなのか、教えていただけますか?
谷口 免疫とは、一言でいえば、病気から免れるために働く、体のシステムのことです。
血液中にある、白血球や赤血球、リンパ球などが連携して、自己細胞と外からの異物とを区別し、異物を攻撃する。さらに、1度覚えた情報を蓄え、次の侵入に備えているのです。
──異物というと、生物が出す毒や、細菌、ウィルスの侵入などいろいろありますが、身近なところでいえば、風邪をひいたときに、1週間程度で自然と治るのも、免疫の働きによるものなんですね?
谷口 その通りです。
異物が侵入すると、攻撃を行なう物質が作られますが、人間の体内には、あらゆる異物の侵入に対応できる準備がされています。これを「抗体」といい、これに対して、異物を「抗原」というわけです。
ハブに咬まれたときに行なう血清や、風疹、BCGなどのワクチンを注射する予防接種は、体内に弱い抗原を入れて抗体を作らせる、免疫システムを利用した治療法です。
──なるほど。私達の体には、「抗体を作る」という、すばらしい治癒力が備わっているのですね。
だいたい、どのくらいの抗体を作ることができるのですか?
谷口 1兆種類以上の抗体を作る能力があるといわれています。
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コンピュータグラフィックで表した、自己と非自己を認識するための細胞表面蛋白「MHC分子」と、人間の体の構成素「ペプチド」の結合図。赤:MHC分子、青:ペプチド <写真提供:谷口 克氏> |
──そんなに膨大な数を作れるとは驚異的です。
人間の体は、親からもらう遺伝子によって作られていますが、抗体も親から受け継いでいるのでしょうか?
谷口 いいえ、実は、免疫の抗体遺伝子だけは、自力で作ります。
人間は、遺伝子の断片を親からもらい、その断片を集めて1つの抗体を作っています。ランダムな組み替えを行なうことで、さまざまな抗体遺伝子を持ったリンパ球ができるのですが、そもそもこの作業には規則性がないため、結果、無限に近い数の抗体を作ることが可能になります。
もっというと、私達の体は、地球に存在していない病原体に対しても、すでに対応できる能力があるともいえるのです。これは、生命にとって、ものすごいアドバンテージです。
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『新・免疫の不思議』(岩波書店) |
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