こだわりアカデミー
時差ボケは体内リズムの乱れ。 細胞内にある「時計遺伝子」がその鍵を握っています。
体内時計をコントロールする時計遺伝子
山口大学時間学研究所教授
明石 真 氏
あかし まこと

1973年北海道生まれ。97年京都大学農学部卒業、2002年京都大学大学院理学研究科博士課程修了、同年同大学院生命科学研究科学振研究員PD、03年大阪バイオサイエンス研究所学振研究員SPD、04年佐賀大学医学部循環器内科寄附講座教員、07年佐賀大学医学部循環器内科助教、09年より現職。専門分野は「時間生物学」で、生物の体内時計や代謝変化など、生体の持つリズムについての研究を行っている。頭髪やひげなどの根元に付着する細胞を採取することで、簡便に人間の体内時計を測定する方法を開発。今後、医療分野での活用が期待されている。2010年日本時間生物学会学術奨励賞、11年文部科学大臣表彰「科学技術賞(理解増進部門)」を受賞。
2012年10月号掲載
明石 例えば、昼夜交代勤務の方などは、生活のリズムが整えにくく、体内時計がなかなか対応できないため、慢性的な時差ボケになっていることが多いのです。また、夜中にパソコンやスマートフォンなどを長時間使用すると、目から強い光が入ってしまい、昼間と勘違いをして、体内時計のリズムが崩れて、「起きられない」「集中力がない」などの状態になります。さらにその乱れが続くと、精神疾患、高血圧、糖尿病、動脈硬化など、さまざまな健康に影響を与えることも分かってきました。
「体内時計」測定の新手法を開発
──ということは、時差ボケ状態であることを早くつかむことができれば、健康を改善することもできそうですね。
先生は、体内時計のズレをすぐに確認することができるように、体内時計の状態を簡単に測定できる方法を開発されたとか。
明石 はい。従来は、口内粘膜や血液による測定などが主流で、煩雑で精度が低かったのですが、頭髪やひげなどの根元に付いている細胞を採取し、そこにある時計遺伝子の活動を計測することで人それぞれの体内時計の状態を把握する手法を生み出しました。比較的簡単に計測でき、精度も高いです。
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抜き取った体毛(髪やひげ)の根元に付着する細胞を利用することで、簡単に体内時計の測定ができる<写真提供:明石 真氏> |
──新しい測定法によって体内時計の状態が分かると、さまざまな応用ができそうですね。
明石 はい。最近では「時間医療」という分野が注目されてきています。人間の体の体温、血圧、循環器機能、免疫機能、代謝などには、リズムがあることはお分かりだと思いますが、薬に対する反応、吸収がいい、悪い、副作用の具合なども、各人のリズムによってかなり違ってきます。ある種の抗がん剤は、就寝中(体内時計の夜間)に投与すると、吐き気や抜け毛などの副作用が劇的に減り、かつ効果も大きいことが分かっています。
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抜き取った体毛(髪やひげ)の根元に付着する細胞を利用することで、簡単に体内時計の測定ができる<写真提供:明石 真氏> |
──なるほど。各人の体内のリズムの状態を確認しながら、病気に対する治療や投薬を最適なタイミングで実施することが可能になるというわけですね。
明石 その通りです。その他にも、睡眠障害やうつ病など、体内時計の乱れによる病気の予防、診断、治療といった分野でも役立てるよう、さらに精度を上げ、普及に努めていきたいと思います。
──今後に期待しております。
本日はありがとうございました。
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明石氏の研究室では、体内時計を簡単に測定できる方法を開発。写真は、実験のために、頭髪を採取している様子と研究室の様子<写真提供:明石 真氏> |
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