こだわりアカデミー
偶然の産物によって進化してきた生物。 でも、ヒトを形成する情報は DNA全体のわずか3%程度なんです。
進化するDNA
東京工業大学生命理工学研究科教授
岡田 典弘 氏
おかだ のりひろ

1947年、東京都生れ。78年、東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。アメリカNIH社、筑波大学生物科学系講師を経て、93年より現職。DNAの遺伝情報配列の研究で、81年、「tRNAグアニントランスグリコシアーゼとtRNAに存在する微量塩基成分Qの生合成機構」日本生科学会奨励賞を、96年、「ゲノムの多様性の獲得機構とその進化的異議に関する研究」で木原記念財団学術賞(第4回)を受賞。2003年よりアフリカ・ビクトリア湖のシクリッド遺伝子研究を開始し、04年、現地調査を行なう。動く遺伝子仮説が各メディアで話題になっている。
2004年12月号掲載
DNAを変化させ適応。700種以上に分化したシクリッド
![]() |
ケニア・ウガンダ・タンザニアに囲まれ、面積は6万8,000平方メートルにも及ぶアフリカ最大の湖、ビクトリア湖 〈写真:岡田典弘氏撮影〉 |
──アフリカのビクトリア湖に注目されたのはなぜですか?
岡田 ビクトリア湖は1万2千年前に一度完全に干上がり、魚がいったん死滅しました。だからビクトリア湖の固有の魚である700種以上のシクリッドはわずか1万2千年の間に、同じ祖先から進化してきたと考えることができる。
![]() |
次々とかかるシクリッドを網からはずす。トロール漁にて採取した一部。湖には多種多様のシクリッドが存在している 〈写真:岡田典弘氏撮影〉 |
![]() |
トロール漁にて採取した一部。湖には多種多様のシクリッドが存在している。 〈写真:岡田典弘氏撮影〉 |
シクリッドは体の大きさ、体の表面の色と模様、アゴの形状など、実にさまざまな種類に分れていて、見た目だけでは、ほぼ同一の染色体を持っているとは到底思えないほどです。
こういうケースは非常に珍しいので、生物進化の研究に適しているのです。
──わずか1万2千年前には同一の祖先だったのですから、染色体はほとんど同じはずですね。なぜそれほど多彩な形に変化したのでしょうか。
岡田 シクリッドが多彩に分化できた原因として、ごくわずかなDNAの変化が、非常に大きな生態の変化を作り出すという可能性が考えられます。
![]() |
トロピカルな色が眩しいシクリッド。Haplochromis(Pundamilia)nyerereiオス。釣れた直後は特に色彩が大変美しい〈写真:岡田典弘氏撮影〉 |
例えば網膜には光を感じる数種類のタンパク質が存在しますが、そのタンパク質の設計図であるDNAがほんの少し変化しただけで、感じる光の波長が変る。そして、より暗い光を感じることができるようになった魚は湖の深いところで生息できるようになり、やがて新しい種に分化する。網膜だけでなく、異性をひきつける役目を果たす体表の色と模様の変化も大きいでしょう。また餌を取ったり、子育てをしたりするためのアゴの形状もさまざまです。DNAのわずかな変化でこのような種の分化が起きていることが解明できれば、非常に大きな成果になると思います。
──ビクトリア湖でのシクリッドの現地調査も行なわれているそうですが、何か新しい発見はありましたか?
岡田 今年の夏、ビクトリア湖を2週間ほど訪れました。現地で調査をしてみると、非常に興味深い新事実が判明しました。最近、ビクトリア湖ではナイルパーチという回遊魚が登場し、これがシクリッドを食べるために、シクリッドは絶滅の危機にあるのですが、1種だけ減らない種がいたのです。実はこのシクリッドは夜行性だったんですね。だから、昼間に活動するナイルパーチから逃れることができたというわけです。どうやって夜行性になったのか、DNAの変化を今調べているところです。
──サインの研究や、シクリッドのDNAの研究などで、生物の進化のメカニズムが解明されていけば素晴らしいことです。私達人間の辿ってきた進化の変遷も分る日がくるかもしれないですね。
本日は進化の不思議を考えることができました。どうもありがとうございました。
サイト内検索