こだわりアカデミー
女王蜂を中心に形成されるミツバチの社会。 役割分担が徹底しているのが特徴です。
ミツバチの行動を解明する
玉川大学農学部教授
佐々木 正己 氏
ささき まさみ

1948年東京生れ。70年玉川大学農学部卒業、72年東京農工大学大学院修士課程修了。75年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了後、玉川大学農学部助手、80年助教授、87年教授に。著書に『養蜂の科学』(94年、サイエンスハウス)、『ニホンミツバチ』(99年、海游舎)など。
1999年12月号掲載
ミツバチの巣はエアコン完備
──ミツバチは仲間に情報を伝える時、面白い方法を使っているそうですね。
佐々木 そうなんです。実は、情報伝達の多くはダンスで行なっており、まさに言語といって良いでしょう。
ダンスにもいろいろありますが、例えば、蜜の採取時の収穫ダンス。これは、良い蜜を見付けた場合、仲間にそのありかを知らせ、みんなを召集するためのダンスで、情報発信者である蜂は、「8の字」を描きながら巣内を踊り歩きます。この時、羽の上下振動で音を出し、同時に尻も振るのですが、この音の長さで蜜源までの距離、体の角度で方向を示します。また蜜源の質や量までもこのダンスで表現しているのです。
──「蜜がある」という情報に加え、それが「どこに、どれくらいあって、味はどうなっている」というような情報までも伝える力があるとは、驚きました。人間以外の動物では、あまり考えられないことですね。
佐々木 このほか、ミツバチはたまに全員で引越しをするんですが、その前にも一部の蜂がダンスを踊ります。この引越しを「逃去」、その時踊るダンスを「逃去ダンス」とわれわれはいっています。このダンスは収穫ダンスと同じようにお尻を振るのですが、「8の字」は描かず、踊る長さも蜂によってバラバラなんです。面白いことに、一度も巣外へ出たことのない蜂も、そのダンスを見たら「もうこの巣を去らなくちゃいけない」と分るようです。
──どうして逃去するんですか?
佐々木 巣の周辺に花粉、花蜜源が少なくなったため移動するという場合がほとんどですが、ほかにも周辺環境の変化により、巣が日光にさらされ暑さに耐えられなくなったとか、巣が手狭になったなど理由はいろいろあるようです。まさに逃去した後の巣は「もぬけの空」で、先日も大学構内で飼っていたミツバチに、逃去されてしまったんです(笑)。
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玉川大学構内には、ミツバチの巣箱が設置してあり、多くのミツバチを飼っている |
──また一から巣をつくらなければいけないわけで、労力もたくさんかかり、リスクが大きいと思うんですが…。ミツバチは、結構思い切りがいいんですね。
佐々木 ミツバチは本当に住環境に気を配る昆虫です。ですから巣はいつも清潔ですし、温度も一定に保っているんですよ。
寒ければ、まず多くの蜂が集まって断熱層をつくり、それでもだめな場合、翅(はね)ははばたかせず、飛翔筋(ひしょうきん)だけを緊張させて発熱し、巣内を温めます。
一方、夏の暑い盛りには、皆で一定方向に向かって羽を動かし、換気をします。それでも足りない時は、水を運び込んで巣内で「打ち水」をし、そこに扇風する、いわゆる気化熱を利用し、温度を下げるのです。また、水そのものでなく、水を含んだ薄い蜜を使い、蜜の濃縮とを同時に行なって「一石二鳥」を図ることもあります。
──すごい機能です。まさにエアコン完備ですね。
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