こだわりアカデミー
人の食生活の原点「昆虫食」。 栄養価も高く、21世紀の食糧としても 期待が高まっています。
見直される「昆虫食」
東京農業大学応用生物科学部教授
三橋 淳 氏
みつはし じゅん
1932年、東京都生れ。55年東京大学農学部卒業。同年農林水産省農業技術研究所入所後、米国ボイストンプソン植物研究所へ留学。オーストラリア・CSIRO昆虫学研究所客員研究員を経て、84年、農林水産省林業試験場天敵微生物研究室長、88年、東京農工大学農学部教授。98年より東京農業大学応用生物科学部教授に。農学博士。日本応用動物昆虫学会賞、日本農学賞、読売農学賞を受賞。主な著書に『昆虫の細胞を育てる』(94年、サイエンスハウス)、『世界の食用昆虫』(84年、古今書院)、共編著に『虫を食べる人びと』(97年、平凡社)など。
2001年7月号掲載
カイコのサナギ3つで卵1つ分の栄養が
──世界各国で未だに昆虫食の習慣が受け継がれているとはいえ、全体的には減る傾向にあるようです。しかしその一方で、見直そうとする動きもあるようですが…。
三橋 はい。21世紀の半ばには、世界の人口は今の倍になるといわれています。しかし、食糧生産を2倍にするというのは難しく、特に動物タンパク質をどうやって確保するかが問題化しています。そこで、未来のタンパク源として昆虫に高い関心を寄せる人が増えてきたんです。
──栄養価としてはどうなんですか?
三橋 昆虫によって含量は違いますが、いずれもタンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどを含み、栄養価は非常に高いですね。例えば、日本でも食べられているカイコのサナギは、3匹がニワトリの卵1個分に相当するといわれているほどです。
──それはすごい。成長が早い昆虫などは、食材としては有効でしょうね。
三橋 さらにブタやウシを始めとした家畜は、人も食べられる穀物などをエサにするため、無駄が多く、そのために生産効率が悪いんです。一方、昆虫は、人が食べられないもの、例えば落ち葉や動物の死体、排泄物などをエサとしているものがおり、人間と食糧を取り合わないという点で効率がいいのです。
──われわれの出す生活ゴミなども活用できそうですね。
この分野の具体的な研究や実験は、進んでいるのですか?
三橋 まだ専門に手掛けている研究者が少なく、それほど進んでいません。
ただ、どんな昆虫が食材に適しているかというと、われわれの身近にいるハエの幼虫であるウジが有望ではないかと考えています。
──ウジはすぐに卵からふ化しますから、効率はいいでしょうね。
三橋 その上、栄養もあるんですよ。場所柄、エサにしてるものからして不潔と思われがちですが、ウジの体のタンパク質は別に汚くありません。体に付着しているバクテリアなど衛生的問題は熱処理で解決できますし、エサに排泄物を使えばその処理もでき、一石二鳥と考えています。
──外見は蜂の子に似ていますから、そう思えば…。
三橋 蜂の子もウジも形はそっくりですし、味も大きくは変わりませんから、分らないかも知れませんね(笑)。
とはいえ、一般の人達は昆虫食への認識も薄く、昆虫食を広めるにはそのあたりの問題をクリアしないといけないのは確かです。ただ、アメリカなどでは昆虫食の試食会を行なうなどキャンペーン活動が盛んで、昆虫食への関心を高めようとする動きも見られるようになってきています。
──オーストラリアの航空会社が、アボリジニーの食習慣を紹介するという意味で、機内食に昆虫食を出しているという話を聞いたことがありますね。
三橋 そういった取組みがもっと増えると良いですね。ただ、昆虫をそのままの姿で食卓にのせるのではなく、粉末やペーストにしてスープに入れるなど、昆虫食を提供する側も、一般の人達に受け入れられやすいように工夫していかなければいけませんね。
今年3月、調査のために訪れたペルーにてさまざまな昆虫食に出会う。ヤシ類などに寄生するヤシオサゾウムシの幼虫。体長は5cm程度。(上) 焼鳥ならぬ焼虫?をガブリ(写真提供:三橋淳氏)(右) 表面はこりこりとした固めのキノコのような食感。地域によっては生で食べるところも!(下) |
『虫を食べる人びと』(平凡社) |
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