こだわりアカデミー
何世紀にもわたり独自の文化を経典で継承。 ヤオ族は世界でも稀有な民族です
中国からアジアに広がる少数民族
神奈川大学経営学部教授
廣田 律子 氏
ひろた りつこ

1957年千葉県出身。81年早稲田大学教育学部卒。86年慶應義塾大学文学研究科修士課程修了。博士(文学)。現在、神奈川大学経営学部兼経営研究科教授。2008〜15年神奈川大学プロジェクト研究所ヤオ族文化研究所長、15年4月(一社)ヤオ族文化研究所設立、所長に就任(ウェブサイトhttp://www.yaoken.org/)。主な著書に、『鬼の来た道―中国の仮面と祭り』(玉川大学出版部)、『中国民間祭祀芸能の研究』(風響社)など。
2015年5月号掲載
廣田 例えば、ヤオ族にとって、もっとも大事な儀礼のひとつに、救世主である盤王を祀(まつ)り『盤王大歌』を歌う儀礼があります。彼らの神話では、祖先が南京から移住の旅に出、海を船で渡ろうとした際に大嵐に遭遇し、盤王に助けを求め願を掛けたところ、無事に上陸できたとされ、そのため今でも何か事があれば盤王に願掛けをして、成就した際にお礼として盤王が祀られています。大願成就の願ほどきの儀礼では、その昔、盤王に助けられたという内容が繰り返され、こうした神話が儀礼の中で再確認されることで、ヤオ族自身のアイデンティティである歴史や風習などを伝えているのです。
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中国の『盤王大歌』を歌唱する祭司たち。祭壇には豚頭が供えられ、ヤオ族がかつて海を渡り遭難した際盤王に救いを求めたとされる神話的場面が再現されている〈写真提供:ヤオ族文化研究所〉 |
焼畑を繰り返しながら、膨大な経典とともに移動
──ヤオ族は、中国だけでなく他の国にも散らばっているとか?
廣田 そうです。ヤオ族は中国の中でも国境に近いエリアに住んでいるのですが、彼らは焼畑をしますので、地味が衰えると移住を繰り返します。中国国内には約270万人が多数のグループに分かれて点在していますが、国境を越えて、ベトナムやラオス、タイ、ミャンマーなど周辺の地域に移住している人たちも数万〜数十万人単位でいます。でも彼らは必ずその漢字の経典を持って移動しており、独自の宗教儀礼を伝え続けているのです。
──経典に書かれている内容はみな、同じものなのですか?
廣田 はい、そうですね。中国で見た経典とほぼ同じ内容のものを、ベトナムやタイのヤオ族が持っているのを見たことがあります。経典は祭司が手書きで写して伝えていくのですが、他のグループが自分が持ってない経典を持っていると、意欲的に写し取っていくようです。しかも、とても正確に写していることに驚きました。
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──経典はどれくらいのボリュームがあるものなのですか?
廣田 『盤王大歌』を読むのにだいたい一昼夜くらいかかります。儀礼は、1時間ほどの安産祈願などから3週間かかる最高位の祭司となる通過儀礼までさまざまあります。そうした大きな儀礼になると、使用される経典も数十冊単位、神に宛てて書かれる文書は数百件にのぼります。
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中国の最高位の祭司となる儀礼で、受礼者1人ずつ12の灯をともす。祭司は経典を読誦する〈写真提供:ヤオ族文化研究所〉 |
──そんなに? 書き写すのが大変な労力ですし、全体でかなり膨大な量になりそうですが、それを持って移動するのですか…。
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