こだわりアカデミー
歴史は必ず変る。 その時代によって歴史に対する問いかけが変るのです。
聖書に書かれた未来−キリスト教の歴史観
歴史学者 埼玉大学教養学部教授
岡崎 勝世 氏
おかざき かつよ
1943年富山県生れ。67年東京大学文学部西洋史学科卒業後、同大学の大学院へ進み、博士過程単位取得後退学。大学では林健太郎教授、大学院では成瀬治教授に師事。専攻はドイツ近代史。今後の研究活動としては、ドイツの啓蒙主義時代の歴史学のほか、古代から19世紀までの人々がどういうふうに世界を見て世界史を考えてきたのかをまとめたい、とのこと。著書に『聖書vs世界史−キリスト教的歴史観とは何か』(96年、講談社現代新書)がある。
1998年3月号掲載
ニュートンの研究活動のベースは「聖書」
──先生が書かれた「聖書vs世界史」を大変興味深く読みました。歴史というのは面白いものだなと常々思っていましたが、「聖書」という切り口から西欧社会の歴史を捉えるというのは初めてでしたので、いろいろと驚いたこともあったんです。例えば「紀元前」を含むキリスト紀元がヨーロッパで一般化したのは19世紀に入ってからなど、とても意外でした。
岡崎 実は私もそれにはびっくりしたんです。われわれは「紀元前」という言葉を今は簡単に使っていますが、19世紀までは一般的に「紀元前」という考え方はなく、「創世紀元」で十分通用していたのですから。この本をまとめながら、この他にも、いろいろな事実が分かって、驚きながらもとても楽しんでやっていました。
──今日はそのキリスト教的歴史観や先生の考えておられる歴史の見方など、いろいろとお伺いしたいと思っています。
驚いたことと言えばもう一つあるんですが、ニュートンの研究活動は聖書がベースにあったなど、これもまた意外でした。
岡崎 ええ。ヨーロッパでは16世紀から「大学者の時代」といえるほど著名な学者を多く輩出していきますが、こうした学者達は、皆、聖書の研究者でもあるんです。例えば聖書の冒頭にある「神は6日間で天地を創造した」という話には宇宙論の要素も含まれています。彼らはこうした記述を信じていたからこそ、それらを証明するために哲学や物理学など、およそ聖書に関わりがあると思われるすべての学問を研究し、発展させていったわけです。
当時の考え方を示すものとして「神の技、神の言葉」という言葉があります。つまり「神の技」というのは神が造り出したいろいろなもの、宇宙や大地などあらゆるものを指します。現在ではそれらは自然科学の対象ですが、それらの法則を知ることが神の意思を知ることとされた。また人間の社会は神の言葉を通じて成り立っている。したがって、この「技」と「言葉」に示されている神の摂理を探究しなければならないと考えていたわけです。こういうことが背景にあり、彼らは聖書を通じて自分達の社会の法則を知ろうとしていたんです。
ニュートンもそんな研究者達の一人で、最後は異端説にかたむきますが、熱烈なキリスト教探究者でした。彼の中では、自然に関する研究も、聖書に関する研究も、すべて神の摂理を解明する研究として、統一して捉えていたのです。
──そうした研究の成果が、自然科学のベースの一つともいえる「万有引力の法則」の発見となったんですね。
岡崎 ええ。一方歴史研究の分野ではこんなことがあったんです。これはあまり知られていないことなんですが、彼は自然科学によって歴史の年号を測定しようともしたんですよ。でも天文学を利用するところまでは良かったのですが、それを伝説に適用してしまったため、ギリシア史やローマ史を大きく短縮してしまうという間違いも犯したんです。
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