こだわりアカデミー
世界中で食べられているジャガイモ。 実はインカ文明など、人類の歴史に多大な影響を及ぼした 食物なのです。
ジャガイモがつくったインカ文明
民族植物学者 国立民族学博物館民族文化研究部教授
山本 紀夫 氏
やまもと のりお
やまもと のりお 1943年、大阪府生れ。70年、京都大学農学部農林生物学科卒業、76年、京都大学大学院博士課程修了。78年、国立民族学博物館助手、82年、助教授を経て現職。主な著書に『インカの末裔たち』(92年、日本放送出版協会)、『ジャガイモとインカ帝国 文明を生んだ植物』(2004年、東京大学出版会)。編著に『木の実の文化誌』(92年、朝日新聞社)、『酒づくりの民族誌』(95年、八坂書房)、『ヒマラヤの環境誌−山岳地域の自然とシェルパの世界』(2000年、同)など多数。
2004年6月号掲載
インカ文明を支えたジャガイモ
──先生は民族植物学をご専門とされており、中でもジャガイモ研究における第一人者と伺っております。
本日はいろいろとお話をお聞きしたいと思いますが、まず始めに、研究に取り組まれたきっかけについて、教えていただけますか?
山本 実は、私はもともと、トウガラシの研究をしていまして、調査のために何度も南米ペルーのアンデス高地へ出掛けていました。
そこで、インカ文明の末裔といわれる人々の生活を見て、興味を持ったことがきっかけですね。
──具体的には、どんなところに興味を持たれたのですか?
山本 インカ文明は、通説ではトウモロコシが主食といわれていましたが、現代人の生活を見ると、ジャガイモの方が欠かせない食物でした。
私はそこに疑問を持ち、文明を知るためには、ジャガイモの研究が必要であると感じたのです。
──なるほど。そして、実際にジャガイモが主食であったことを発見されたのですね。
ところで、そもそもジャガイモの原産地とは、一体どこになるのでしょうか?
山本 アンデスのティティカカ湖畔です。湖の周りは富士山よりも標高が高く、草原地帯が広がっています。
アンデスは、平均標高が約3,500m、面積は日本の約3倍もある山岳地帯です。ジャガイモだけでなく、トマト、トウガラシ、カボチャといった食物の原産地でもあるんですよ。
"標高約3,800mのアンデスの景観。樹木はほとんどなく、主にジャガイモ畑が広がっている <写真提供:山本紀夫氏>" |
──なぜこれまで、インカ文明の主食はトウモロコシとされていたのですか?
山本 考古学的な発掘は盛んでしたが、調査には偏りがありました。
乾燥すると残りやすいトウモロコシに比べ、イモ類は腐ってしまい何も残りません。ですから、発掘データでいうと、圧倒的にトウモロコシが有力説だったわけです。
──民族学的な調査は、あまりされてこなかったのですね。
山本 そうです。先住民がいる村は、標高4000mの場所にあり、寒さが厳しい上に、高山病にもかかりやすい所です。しかも、村は閉鎖的な社会なので、入りにくく、調査をするのがとても困難だったのです。
──そうですか。それは先生も研究されるのにご苦労なさったのでしょうね。
山本 はい。私は村の人達と一緒に暮らせるようになるのに、1年ほどかかりました。
まず始めに、先住民がいる村ではなく、標高3000mにある町で暮らし、親しくなった人を通じて、少しずつみんなに顔を覚えてもらったのです。
『ジャガイモとインカ帝国 文明を生んだ植物』(2004年、東京大学出版会) |
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