こだわりアカデミー
星の位置や分布、その動きから、 未知の素粒子の正体を突き止める
宇宙の「ダークマター」って何だ?
国立天文台JASMINE検討室室長・教授
郷田 直輝 氏
ごうだ なおてる

1960年、大阪府生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学理学部助手、大阪大学理学部助教授を経て、99年に国立天文台教授。04年より現職。専門は宇宙論のほか、銀河の形成・進化と重力多体系の力学構造の解析など。天の川銀河の中心部の地図を描くため、JASMINE(赤外線位置天文観測衛星)計画を推進中。著書に、「天の川銀河の地図をえがく」(旬報社)、「ダークマターとは何か」(PHPサイエンス・ワールド新書)など。
2016年1月号掲載
ダークマターは生命誕生の立役者
──先生の著書『ダークマターとは何か』を大変興味深く読ませていただきました。宇宙には私たちが見ることができない「何か」があることは知っていたのですが、それが、星や惑星など見えているものを作っている普通の物質の5〜6倍もあるそうですね。でも、なぜ、見えないダークマターが、どうして「ある」と分かったのでしょうか?
郷田 ひとつは星の動く速度からです。星の速度は、受ける重力が強いほど速くなります。そして重力は星が多くある場所ほど強くなります。
そのため以前は、われわれのいる天の川銀河の星の速度は、星がたくさん集まっている中心部がより速く、外側にいくほど遅いと推測されていました。ところが実際に観測してみると、外側も中心部もそう変わらない速度で動いていることが分かったのです。ということは外側の目に見えないところにも重力を発生させる「何か」があると仮定できるのです。
──その「何か」見えないものがダークマターで、ダークマターが存在しないと、理論的につじつまが合わないというわけですね。
郷田 はい。また、重力によって光が曲げられる「重力レンズ効果」という現象からも、ダークマターの存在が推測できます。
さらに、銀河が集団を組んで束縛されていることです。宇宙には、1000億個以上の銀河がありますが、それらは50〜数千個程度の群れをつくって「銀河団」となり、その銀河団がさらに複数連なって「超銀河団」を形成しています。一方で、銀河がほとんど存在しない空洞もあり、「宇宙の大構造」は、超銀河団と空洞が織りなす、ちょうど石鹸の泡のような構造をしています。このように銀河の分布に偏りが起こるには、ダークマターのように局所的に強い重力を発生するものが必要であることからもその存在はほぼ確実とされ、今では、99%以上の科学者がダークマターの存在を信じています。
──状況証拠がそろってきたのですね。
郷田 ええ。また、天文学分野に限らず、宇宙論や素粒子論分野でも、ダークマターの存在がかねてより示唆されてきました。例えば、銀河はビッグバン(宇宙発生)直後に、素粒子から作られた水素やヘリウム等の普通の物質が集まって誕生しました。それらが集まるためにも、普通の物質が作る重力よりももっと大きな重力を発生させる何かが必要なのです。
──それがダークマター?
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郷田 はい、そうです。銀河が出来なければ、その中で太陽のような星や地球も出来ず、われわれ人間も生まれなかったことになりますから、実はダークマターは生命誕生の立役者でもあるんですよ。
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