こだわりアカデミー
オジギソウの「おじぎ」は、なぜあんなに素早い? その秘密は、細胞の骨格をつくるタンパク質にあるのです。
オジギソウはなぜおじぎするのか
上智大学理工学部教授
土屋 隆英 氏
つちや たかひで

1943年、東京都生れ。67年、上智大学理工学部卒業。69年、同大学大学院修士課程修了後、同大学化学科生物化学教室助手。78年、同大学教授に。専攻は、生化学食糧化学。著書に『身近な生命科学を知る』(96年、丸善)など。
2000年12月号掲載
気孔の仕組みを解明できれば砂漠に植物も夢ではない
──ところで先生は、もともと動物のタンパク質の研究がご専門と伺いましたが…。
土屋 そうなんです。もともと水産動物の筋肉の研究をしていました。水中の動物は、陸上の動物に比べ、はるかに多様性があるんです。魚一つとってみても、何十気圧もの中で暮らすものもいたり、マグロのように1年以上かけて太平洋を回遊するもの、はたまたヒラメのように砂地でほとんど動かないものなど、いろいろいます。それぞれがその生活に合った筋肉を持っているわけで、そうした筋肉を構成するタンパク質についていろいろ調べてきました。
一方、植物は、動物と違って目立った動きをしない生物です。しかしながら、動物のような激しい運動をするオジギソウを見て、「これにはタンパク質が関係しているのではないか」と関心を持ったことが直接的なきっかけです。
──「タンパク質」という観点から、植物の分野に入られたのですね。
土屋 そうです。
それに加え、日頃から人間と自然の関わり合い方について、疑問を持っていました。動物と植物はこの地球を支える二本柱で、この土台があるからこそ、私達人間がいるわけです。もっと地球、自然のことを考えないといけないと思っていました。特に植物は、生物の進化を語る上でも欠かせませんし、食料としてはもちろんのこと、昔から医薬品としても利用されてきた非常に重要な生物です。にも関わらず、植物は研究面からいっても軽視されている。そういう思いが根底にあったため、植物の世界にも足を踏み入れたんです。
──動物に関する研究はヒトゲノムの解読、人間の脳の仕組みの解明にまで及んできており、多くの人々の関心を集めています。それに比べると、確かに、植物の研究はあまり耳にしませんね。しかし、昔からの謎であったオジギソウの仕組みの解明は、多くの人が植物に関心を持ついいきっかけになる気がします。
土屋 そうですね。実際に、『ネイチャー』に紹介されてから、新聞などの報道を始め、博物館などからも問合せがたくさんきています。これをきっかけに、多くの方が身近な植物に関心を持ち、親しんでいただけたらうれしいですね。
──最後に、これからのご研究のテーマは?
土屋 やはり、まだオジギソウで分らないところがあります。まずそれを追究し、解明することが第一です。そしてそれらをもとに、多くの植物の謎に挑みたいと思っています。
例えば、植物の葉の表皮にある気孔。ここから水を蒸発させたり、炭素ガスや酸素の出し入れをしたりするんですが、実は朝、太陽が昇るとともに開き、夜になると閉じるのです。この開閉も、例のアクチンが関係しているのではないかと思っており、その解明にもつながるのではないかと期待しています。そして、この気孔をコントロールして水の蒸発を管理できれば、それこそ砂漠などで植物を育てることも夢ではないでしょう。
──夢が膨らんできますね。非常に楽しみです。
土屋 さらに、オジギソウの研究と並行して、タンパク質の研究者の育成をしたいと考えています。
この研究は、一筋縄でいかない難しい分野です。例えば、タンパク質を分解するにしても、温度など微妙な違いで失敗することもある−まさに自分の「勘」が頼りで、ある意味、職人的な研究なのです。ですから、これまでの自分の蓄積した技術を、後輩に伝えていきたいですね。
また、この分野にアメリカなどが本格的に乗り出しつつあります。ヒトゲノムの情報が分った今、これからはその情報が実際にどう機能しているか調べる段階に入ってきています。それには、タンパク質を見ないといけません。この分野では、日本は世界でもトップクラスを誇っています。良い人材を世に送り出し、アメリカ等と協調しながら、このタンパク質研究を進めていけたらいいですね。
──オジギソウの研究はもちろんのこと、これからの日本、そして世界を担う研究者の育成にも、非常に期待しております。
本日は、興味深いお話をありがとうございました。
※土屋隆英先生は、2020年12月にご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)
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