こだわりアカデミー
渋沢敬三先生の陰徳の精神は 現代の日本人が忘れてしまったものの一つかもしれません。
忘れられた偉人・渋沢敬三と「陰徳の精神」
文化人類学者
飯島 茂 氏
いいじま しげる

いいじま しげる 1932年、横浜生れ。55年、東京教育大学卒業、61年、京都大学大学院修了。法学博士。専攻は社会人類学。主な著書に、『ネパールの農業と土地制度』(東京大学出版会)、『カレン族の社会・文化変容』(創文社)、『祖霊の世界−−アジアのひとつの見方』(NHKブックス)など、多数。
2005年6月号掲載
忘れたくない日本人の精神
──ところで、このような功績の大きい渋沢敬三という人物が、現代ではなかば忘れられているのはどうしてでしょうか?
飯島 おそらく敬三先生のされたご行為が、本当の「陰徳」、つまりひっそりと善行を積まれたからではないでしょうか。
こんなエピソードもあります。
時効かなとも思って何回かお話させていただいているものですが、ここでもご紹介させていただきたいと思います。
民族学会や民俗学会を中心に組織し、敬三先生が支援された「九学会連合」が、九州のとある離島に調査に行きました。中心に調査を行なった宮本常一先生が、島の方々へ調査協力のお礼として、後援者である敬三先生に、「島に電気がないところがあるので、電気をつけていただけないでしょうか」といわれたそうです。さすがに、これには敬三先生も絶句されたそうで…(笑)。
敬三先生に長いことお世話になって親交の深かった宮本先生も、さすがにいいすぎたかなと思われたそうですが、敬三先生は「ぼくの名前を出さないなら、やってみるよ」と、その場で手はずを整え始められたそうです。
──かっこいいですね。
飯島 本当にそうですね。
敬三先生へ尊敬の念を反芻すると同時に、現在では失われ掛けている敬三先生のような「陰徳の精神」の一端でも引き継いでいきたいものだとしみじみ思っています。
それにしても、渋沢家も、われわれ研究者も、そして日本も、敬三先生に甘えすぎたのではないかと悔やむように考えている昨今です。
──同感ですね。
飯島先生にこういったお話をお伺いできたお陰で、日本にこんな素晴らしい人がいたということを初めて知りました。
先生方のご尽力で、こうした偉大な方のご功績をもっと語り伝えていっていただけたらと思います。
本日はどうもありがとうございました。
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