こだわりアカデミー
西洋と異なり、鯨を余すところなく完全利用する日本。 わが国の捕鯨文化は、現在も生き続けています。
世界に誇りたい日本の捕鯨文化
桜美林大学国際学部国際学科教授
高橋 順一 氏
たかはし じゅんいち

たかはし じゅんいち 1948年、千葉県生れ。京都大学文学部卒業、84年、ニューヨーク市立大学大学院修了。ブルックリン大学講師、文化女子大学講師などを経て、1989年桜美林大学国際学部助教授、のち教授。北米の原住民に関する文化人類学的・言語学的研究と共に、日本の捕鯨者および捕鯨コミュニティに関する多くの著作を発表。捕鯨者のアイデンティティーなどの問題を中心とする日本海洋文化の研究を行なっている。著書に「女たちの捕鯨物語」(日本捕鯨協会)、「鯨の日本文化誌」(淡交社)社)など。
2005年7月号掲載
捕鯨禁止の経緯、世界は鯨油から植物油へ
──先生は捕鯨の文化についてのご研究が専門でいらっしゃいます。
鯨といえば、今年のゴールデンウィークには、東京湾で迷い込んだ鯨が発見され、話題になっていました。
昔は料理でもなじみ深いものでしたが、商業捕鯨が禁止されてからは、口にする機会も減ってしまいました。
本日は、日本の捕鯨についていろいろと伺っていきたいと思いますが、まず、捕鯨が禁止になった経緯について改めて教えていただけますか?
高橋 近代の捕鯨は、皮脂から採れる油を主目的に、西洋諸国を始め各国で行なわれていました。
しかし、全体の捕獲枠のみ決めたオリンピック方式が採用されてからは、早く捕ったもの勝ちの乱獲状態となり、急激に個体数が減ってしまったのです。
──大型のシロナガス鯨やザトウ鯨は、絶滅の危機にまでなってしまいましたね。
高橋 しかし、戦後復興とともに植物油が安価かつ大量に供給され始め、鯨油に取って代るようになった。西洋諸国はコストが合わなくなり、捕鯨から撤退しました。
また、国際的な環境運動の高まりもあって、1972年のストックホルム人間環境会議をきっかけに、82年には国際捕鯨委員会(IWC)により、資源保護の目的で商業捕鯨の一時停止が決議され、さらに87年には、鯨種やストックの如何に関わらずIWC管理下のすべての鯨の商業的捕獲が禁止されてしまいました。
──日本では食用として生活に密着していたのに、本当に残念です。
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鯨の利用図。日本では鯨体の完全利用が行なわれていた。鯨は肉や脂、皮から内蔵に至るまで、すべての部分が利用できる。用途も、薬品や工業用品にまで及ぶ。食品としても栄養価が高く、高タンパク、低脂肪で、非常にヘルシーな食品といえる <イラスト提供:(財)日本鯨類研究所> |
高橋 そうですね。皮脂から油だけ採り、残りは捨ててしまう西洋と違い、日本は食用以外にも、皮脂はもちろん、内臓など70種もの部位を、完全利用してきました。
──油のみ求める商業主義の国と日本では、捕鯨に対する根本的な文化の違いがありますよね。
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『日本伝統捕鯨地域サミット開催の記録』 |
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